「前に出て」「下がらないで」がうまくいかない理由

「前に出て」
「下がらないで」

ゴールド戦争などの大規模な集団戦でよく見かけるこれらの言葉は、頭では分かっていてもなかなか集団で実行しきれないのは、アーキエイジプレイヤーであれば一度や二度は感じたことがあるはずです。

「前に出て」と言われ、何も考えずに前に出ても弓や魔法の遠距離攻撃で溶かされますし、「下がらないで」と言われて、その場にいるだけでは轢き殺されます。

一方で「前に出て」と呼び掛ける人は”全員で一斉に前に出ればターゲットが分散し、敵を一気に殲滅できる”といった思惑があります。「下がらないで」も同様に、相手に怖気づいて下がるのではなく、対抗すれば前線を維持できるといった考えがあるでしょう。

実際は、これらの呼びかけがあっても前に出て戦う人は少なく、前線ラインの後ろでウロウロしていたり、敵に背を向けてすぐに下がってしまう人が多く、このような動きを繰り返す戦場は”負け戦”になる可能性が高くなります。

アーキエイジというゲームにおいて、上記事象は頻発し続ける課題であり、問題を明確にした上で戦場で前に出ることがどういうことなのか、整理してみます。

「前に出る」「下がらない」ことの難しさ

大規模な戦場になるほど、指揮者の指示通りに迅速に動けない人は一定数存在してくるものであり、その理由にはさまざまな考えが混在しています。

・(柔らかくてすぐに死ぬから)前に出ても意味がない
・遠距離火力職だから
・回復職だから
・死んでゴールド戦争の証を取れなかったら勿体ない

また、アーキエイジでは、装備が整っていて戦闘コンテンツに慣れているプレイヤーは、極一部に限られがちです。

大規模な集団戦闘において、個人の立ち回りやプレイヤースキルで状況が変わる要素は少なく、戦況を左右する要素の多くは人数が勝っているか、全体の装備がいかに整っているかに尽きます。

前にでる上で、装備格差による動きやすさ(硬さ)の違いは非常に大きいです。

全体の動きの悪さを敗因にしてはいけない

指揮者からすれば「指示通りに動いてくれたら勝てるのになんで指示通りに動いてくれないんだ」と感じる戦場は少なくありません。負け戦であればあるほど、このような思考に至るでしょう。

指揮をするプレイヤーは、アーキエイジの一般的なプレイヤーと相対比較すると、戦闘に対する熱量やNM・コンテンツに関する知識が豊富にある傾向があります。

戦闘コンテンツはアーキエイジというゲームの中のたった一部でしかない農民の人からすれば、いまどのように立ち回り、誰をターゲットし、どんなスキル回しをしていけば良いかといった思考に慣れている人は少ないです。

元から対人ゲームとして運営されているAVAやLOLでは装備格差がないことから、初心者・上級者など関係なく、皆共通してプレイヤースキルの向上に務めようとしますが、アーキエイジでは人それぞれでゲームに求めている内容が大幅に異なり、戦闘コンテンツはおまけ程度でしかない人も多いといえます。

大前提の認識が人によって異なる中で、「強くなろうとしたらPSよりも装備を強化しよう」という色が強いゲーム性を抱えているアーキエイジにおいて、あらゆる判断や臨機応変な対応を求める「前に出て」「下がらないで」という言葉の解釈を深堀りする機会は極めて稀です。

日常的に戦闘コンテンツに触れ、自身のプレイに対して反省や改善といった試行錯誤までを繰り返し続けているプレイヤー人口は全体の1割程度かもしれません。その人口の中で強さを競い合っていくとなると、非常に規模が小さい市場となります。

“戦闘民”と類される人であったとしても、前に出ることの解像度を上げる局面に遭遇する機会が、じつはアーキエイジにはあまり存在しません。世界大会が繰り広げられる対人特化ゲームに比べて戦略・戦術の幅が広がらないのは人口の厚み・システムとして対人要素を突き詰める機会が設けられていないのが大きいと思料できます。

「前に出て」という言葉はシンプルで簡潔な意味合いを持ちますが、解像度の低い内容になってしまうため、この指示によって全体がうまく動けないことを敗因に留めてしまうと、その勢力の未来は暗いものとなるでしょう。

前に出ない、下がってしまう本当の理由

装備格差があるゲームではプレイヤースキルの向上に努める要素が薄くなりがちであり、戦闘は数あるコンテンツの一部でしかないゲーム性を考慮すると、前に出れない潜在的な要因には「前に出るビジョンの合意形成が図れていない」というのが実際のところの問題点ではないでしょうか。

大量の敵を目の前にした時、前に出る行動を取るにあたっての過程・操作手順、その先の結果が感じ取れなければ、全体の動きがあたふたしてしまいます。

戦闘に慣れている人、装備が整っている人であれば、なんとなくごり押しでどうにかなることもあると思います。

前にでることによって戦場がどうなるのか、全体にビジョンが浸透し・潜在レベルでその行動に対する合意形成が勢力全体に浸透していなければ、「前に出る」という行動が適切に実現されることはありません。

「前に出る」という言葉に含まれている行動

「前に出る」という行動を大きくざっくり噛み砕いていくと、以下のようなプロセスがあります。

前に出るプロセス

ゴールド戦争で前に出れない要因

よくあるO鯖西のパターンで言えば以下のような状況が挙げられます。

中ヌイ
東陣地前

東勢力の敵陣を攻めるにあたって通称「中ヌイ」と呼ばれているサンセット村からすぐ奥のヌイを中継し、さらにそこから崖際を直進して敵陣の前に到着します。

O鯖西のゴールド戦争では、この敵陣の前で「前に出よう」といった呼びかけが最も頻繁に使用されていますが、「前に出よう」という呼びかけが出る時点でその戦場には圧倒的な人数差はなく、プロセス①の敵と遭遇してタンクが突っ込んで「前に出る」という手段を安易にするのは難しい状況にあることがほとんどです。

つまり、そのような戦場はプロセス②のライン戦に突入します。

ところが普段のO西はライン戦をする中で全員が少なからず「前に出る」ことを意識していながらも、全体的な装備水準で負けているO西は無理やり押し返されて前に出れないままズルズルと倒されていきます。

これがO鯖西のよくあるゴールド戦争のパターンであり、潜在的な前に出れない要素が隠れています。

「前に出る」意識だけで前には出れない

指揮者は前に出れないことに対して味方に憤りを感じることがありますが、突き詰めるべきはなぜ敵を前に出させてしまったのかに尽きます。

人数差がない戦場で「前に出る」という意識を持っていながらも実行することができなかった場合、その原因には前に出るために必要なプロセス②「敵の行動範囲・退路を潰し、横に広がってプレッシャーをかけていく」といった行動が必要になってきます。

プロセス②をゴールド戦争の敵陣前の状況に言い換えるならば、まず第一にすべきことは敵陣の入口を封鎖することです。

普段の西の陣形は以下の図1であり、理想とするのであれば図2の陣形に持ち込むべきだと考えています。

図1
図1
図2
図2

西は崖際から敵陣に走ってくるため、プロセス②の敵の退路を潰す意識が抜け落ちている状態でプロセス③の前に出ることのみを実行しようとすると、横軸の動きは考えずに縦軸のみで敵との距離を測ろうとします。

その結果、西の陣形は敵陣の正面に回り切らずに崖際でブレーキがかかってしまいます。

しかし、前に出る為に必要な状況を作り出す為にはプロセス②敵の行動範囲を封じる・横に広がり相手へのプレッシャーを強めるという行動が必要であり、この意識が抜けているとどうしても図①のような陣形になってしまい、次に取るべき行動ビジョンが浮かばないまま前に出ることができなくなります。

プロセス②をすっ飛ばして、前に出れるのは装備が整っていて敵に殴られてもなかなか死なないプレイヤーであり、指揮者ほどこの手の思考に陥りがちです。このプロセスを考慮せずに前に出ない味方に責任を押し付ける思考の指揮は接戦の戦いになるほど勝つことが難しくなります。

前線を押し上げる、前に出る行動に移る為には過程条件が必要であり、その過程条件には攻めやすい状況を作り上げることが必要とされているのです。

攻めやすい状況を作り出すメリット

図1
図1

図1の陣形は東の立場からすると、プロセス②の前に出る為の準備をする隙が残っている状態にあり、陣地入口から出てオープンスペースに広がり、横軸の動きを含む展開をしていけば西を押し返す陣形に持ち込みやすい状況です。

相手にプレッシャーをかけるのであれば単純に前に出るだけで良いですが、直線的な前後行動は相手からすれば格好の的になりやすく集中砲火を受けます。

これがまかり通って押し上げられる状況というのは圧倒的な装備差や、人数差がある状況です。(アーキエイジの戦場の多くはこれによって戦いが終結しますが・・・)

縦軸の動きだけでなく横軸の動きを混ぜていく斜め前、横に展開していく立ち回りは、敵と味方との位置関係の微調整や、相手に対するプレッシャーをかけやすく、前線を押し上げやすい陣形を作り出します。

もし、西が最初からプロセス③の前に出ることのみを考えずに、プロセス②のプレッシャーをかけつつ、敵の退路を潰していくことが意識できていれば必然的に図2のような陣形になるでしょう。

図2
図2

相手の行動範囲を潰して入口を封鎖するということは敵が陣から出て横に広がり、前に出る準備をさせない仕組みを作り上げることができます。

また、敵陣地に抑え込まれた敵は陣地の柵があることによって本来、我々に与えられるはずのスキル攻撃によるプレッシャーを与えることができないため、相手の行動範囲を潰して入口を封鎖するメリットは非常に大きなものとなります。
敵からのプレッシャーを封じることは前に出て有利な戦況を作り出すために重要な過程条件であり、その過程条件を満たす行動がプロセス②の横に広がる、斜め前に出ることに繋がっているのです。

そして、自身に降りかかるプレッシャーが少ないとき、多くの人は前に出る行動をとりやすくなり、前に出て自分がとる行動の明確性やビジョンが浮かんできます。

ここでようやくプロセス③の「前に出る」という選択肢を実行しやすくなり、「前に出よう」といっても前に出ないプレイヤーも自然と前に出て戦うことができる状況が出来上がります。

まとめ

「前に出る」という行動に至るためには前提・過程条件が存在し、あらゆる状況判断能力が求められてきます。

全員で前に出て火力を集中し、敵を殲滅させるためには「前に出る」という言葉に含まれている意図・思考・判断の内訳を全体が理解できるように発信する必要があると言えます。

前に出るための過程を理解して実行することで、ようやく全員が前に出て戦うことができる状況が作り出されるため、情報の受信者の知識や戦闘スキルを理解しようとせずに、自身の装備ポイント・知識レベルで指示を出していくのはナンセンスです。

「前に出て」「下がらないで」という言葉は一見、シンプルな指示に思えますがその指示の難易度は状況によって変化していきます。

人数や装備Pが勝っている戦場ならば、このような指示だけでも十分に味方が動いてくれるでしょう。しかし、人数や装備Pが拮抗している、あるいは負けている状況で、同じような指示を出しても負けてしまうのであれば、それは指示内容を変更する必要があります。

戦闘慣れしていない農民がほとんどを占めているアーキエイジの戦場では、「前に出て」「下がらないで」という言葉の裏側に含まれている情報を明確に発信し、戦略手順を伝えていかなければ、指揮の能力によって勝っていくことは難しいです。

漠然とした指揮内容で勝てる戦場はそもそも人数や装備Pが優勢にあるだけに過ぎず、指揮者の能力によって勝てたものではないこともあります。

ただ、アーキエイジというゲームは結局のところ、装備が優秀な方が圧倒的に有利なゲームなので、どんなに良い指揮をして完璧な陣形や立ち回りを味方が実行したとしても、圧倒的な装備差の前では何の意味もなくなってしまうのが悲しいところです。

これがある限りアーキエイジプレイヤー全体のPSは伸び悩むことになり、PSの最大値も必然的に小さくなってしまいます。

でも、これがMMOの醍醐味なのかもしれません。

※上記で挙げている状況が考慮されたのか分かりませんが、2.5パッチから東陣地正面の向きが変更されました。

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